沈みゆく大国 アメリカ (堤 未果/集英社)

書籍沈みゆく大国 アメリカ(堤 未果/集英社)」の表紙画像

購入価格:257

評価:

この記事は約4分50秒で読めます

アメリカに住む前、私にあったアメリカに対するイメージは映画「ターミネーター」でありドラマの「フルハウス」であった。一言で言えば、なんかもう、とにかくすごくて、カッコいい。

アメリカの自由の狂気

健康で金があり、そして美男美女であれば、確かにアメリカは世界でもっとも自由で素晴らしい国なのかもしれない。しかしもちろん、そんな人は1%にも満たない。

アメリカには、65歳以上の高齢者と障害者・末期腎疾患患者のための「メディケア」、最低所得層のための「メディケイド」という、二つの公的医療保険がある。このうち州と国が費用を折半するメディケイドの受給条件は、所得が国の決めた貧困ライン以下の住民が対象だ。

ご存じのように、アメリカには日本のような国民皆保険制度はない。そのため、各々自分で民間保険を選んで購入しなければならない

そのため、日本で年金を払わない人がいるように、保険を買わない又は買えないという無保険の人もごまんといる

メディケイドを受給するほどではないが所得が低くて民間保険に入れない者は、OHPを通して民間保険に加入することができる。

OHPとはリベラル色の強いオレゴン州独自の医療保険制度で「オレゴンヘルスケアプラン」の略である。

OHPの医療費支払いには「いのちに関わる医療行為から、改善の見込みが低い治療」まで、州独自の基準で優先順位がつけられていた。三年前、まだ初期ステージだったがん治療費用をOHPが支払ってくれたときのことを思い出し、バーバラはなんとか気持ちを落ち着けた。病気の再発はショックだが、まだ希望はあるのだ。

だがその希望は、後日OHPから届いた一通の手紙によって、打ち砕かれることになる。
〈がん治療薬の支払い申請は却下されました。服用するなら自費でどうぞ。代わりにオレゴン州で合法化されている安楽死薬なら、州の保険適用が可能です〉

アメリカ人は自由を最上のものと考える。ゆえに、国民皆保険制度のような、どう考えてもプラスとしか思われないようなことであっても、それは押しつけで、自由の侵害と考えるのである。

情け容赦ないビジネス

昨今、日本でも成果主義、ビジネスライクな経営手法が浸透してきた。終身雇用の崩壊が取り沙汰されて久しいが、しかしさすがのアメリカにおけるその徹底ぶりは桁違いである。日本はまだまだ情に厚く、人に優しい

非常勤講師をしているマシューと同郷のレイチェル・ブラウンは、風邪をひいた息子の治療費を払ったら水道代が払えなくなり、それ以来光熱費と水を節約するために夜遅く大学のジムに忍びこんで、シャワーを浴びるのだという。「彼女は冗談めかして自分のことを“ホームレス教授”なんて呼んでいます (中略) ついにオバマ大統領が期待に応えてくれた! 2014年からは医療保険に入れるようになる。病弱な息子を抱えていつも医療費の心配をしているレイチェルにも、早速電話でこのグッドニュースを伝えましたよ。僕も彼女も非常勤だけどフルタイムで、保険提供義務の対象(労働時間週30時間以上)ですからね」

だが、「企業経営型」にシフト中の大学側にとって、この法律は決して「グッド・ニュース」ではなかった。フルタイムの教師に保険を提供するための経費をどうするか? (中略) 間もなくして、勤務先の大学からマシューに通知が送られてくる。それは今後すべての非常勤講師が、週30時間のフルタイムから週29時間のパートタイムに降格されるという知らせだった。

これを読んで「なんて汚ないやり方だ」と思われる方は少なくないだろう。とはいえ、ビジネスにおけるゴールが最大利益を上げることに尽きるのだとすれば、これもまた妥当であり、普通の対応ということだ。

個人的には、もしもこの世界が、ここまで冷徹にならなければ生き抜くことができないというのならば、私は喜んで死にたい。

オバマケアはまるで、雨が降った時濡れないように、国民全員に傘を買って渡したような法律です。ところがいざ雨が降って傘を開いてみると、傘は布でなく紙でできていて、どんどん穴があき、みなずぶ濡れになってしまう。しかも傘の代金は、国民から集めたお財布から支払われていたという……

アメリカ化する日本

アメリカで起こったことは十年後に日本でも起こると言われる。もっと、最近はそのサイクルが年々早くなっているともいう。考えなくぼうっとしていれば、遠からず我々の国はアメリカのような国のかたちになるだろう。

今の医療保険制度を、空気のように当たり前にあるものだと思わないことです。制度というものは、一度奪われると取り戻すのは本当に大変ですから。奪われないためには、自分の国の医療制度くらいは最低限知っておくことです。

福沢諭吉の『愚民の上に苛き政府あり』という言葉を思い出す。いくら政府を、政治家を愚かだなんだと罵っても、彼らを生み出したのは他でもない国民なのだ。現政権が醜悪ならば、それは鏡に映った我々の醜悪さでしかないのだ。

記事カテゴリー: 読書