教養としてのコンピューターサイエンス講義 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識 (ブライアン・カーニハン(著),坂村 健(解説)、酒匂 寛 訳/日経BP)

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日本の識字率(読み書きができる人の割合)は99%である。これは当然のようで、当然ではない。80%にも満たない国や地域も多く、世界ではいまだ約7億5000万人(世界の15歳以上の6人に1人)もの人が読み書きできないのである。
参考: 識字率とは?日本や世界を比較し、教育の重要性や現状を知ろう

「コンピューターのことはわからない」では済まない時代

読み書きそろばんができないことを異常だと考える人は多いだろうが、コンピューターに関しては、どうして誰もそうは思わない。パソコンに強い人/弱い人という程度で片付けられているのが現状だ。

コンピューターというものは何を計算できるのかという意味では、みな等しい能力を持っています。それらの違いは、どれほど速く動作できるのか、どれほど多くのデータを保存できるのかに過ぎません。

しかし、これからはそうもいかないだろう。コンピューターの仕組みやインターネットの構造を知ることは生きていく上で最低限の知識であって、それがなければ不自由することになり、不利益をこうむることにもなろう。

コンピューターはおもしろい

パソコンにアレルギー反応を示す人というのは一定数いて、それは私のように数字に拒否反応を示すタイプの人間と大差ない。

ただ、それは教えるのがうまい先生に出会えたか否かのような話で、つまり切り口次第なのではないだろうか。たとえば以下のようなトリビアは素直に興味深くて楽しい。

現在、映画は毎秒24フレームで画像を表示し、テレビは毎秒25~30フレームで表示しています。この速さは人間の目には十分連続的な動きとして認識されます。古い映画は毎秒12フレームしか使用しなかったので、ちらつきが気になりました。その「ちらつき」(flicker)という言葉が、現在では「映画」を意味するflickという言葉として生き残り、Netflixという名前の中にも使われています。

ネット界隈をうろついていると――特にアダルトサイトでは――不意にポップアップで風景写真が表示され、信号だとか横断歩道だとかの部分を選ばされる。

誰でも一度は出くわしたことがあるだろう「CAPTCHA」というテストだが、それが略語だと知っている人がどれだけいるだろうか。

チューリングの名前は、頭辞語CAPTCHAの一部となっています(やや無理はあるのですが)。これは“Completely Automated Public Turing test to tell Computers and Humans Apart”(コンピューターと人間を見分けるための完全に自動化された公開チューリングテスト)の略なのです。

情報量としての人生

私はブログ歴13年ほどなのだが、長年ブログを書き溜めていると、自分の人生そのものが客観的に計量可能な情報量でしかないように思えることがある。

あなたがこれまでの人生で、聞いたことや言ったことをすべて記録するには、どれくらいのディスク容量が必要でしょうか? そして、それにはどれくらいのコストが必要でしょうか? もしあなたが20歳の場合には、その答えは約10TBです。これは現在高くても300ドル程度で、この本が読まれているときには確実に安くなっていることでしょう。完全なビデオ記録だったとしても、10倍または20倍以上大きくなることはありません。

いくら長く生きたとしても、私の人生もあなたの人生も50TBに収まる。そう考えると、アナログな諸行無常、ものの哀れとはまたべつの感慨がこみ上げてくる。

しかしその50TBは私にとってあまりにも大切な50TBで、もしもそれが吹き飛んだなら、私は親兄弟や配偶者を失う以上の苦しみを味わうだろうと思う。データは私の人生そのもの、もっと私の存在それ自体なのだ。現代、そのように感じる人は少なくないのではないだろうか。

だとすれば、生命保険に金をかけるのと同じで、もっとデータのバックアップに金をかけて慎重になっていいはずだが、いまだにパソコンが壊れてデータが全部消えたという話を聞くのは無防備、無知という他ない。

現在の技術はとても急速に変化していますが、人間はそうではないことを常に意識していなければなりません。ほとんどの点で、私たちは何千年も前の存在とほぼ同じです。善や悪の動機に操られる善人と悪人の比率もあまり変わってはいません。

この一文で、著者が単なるコンピューターオタク、PCマニアの類ではなく、人間的に深い人だということがわかる。このような先生に直接学べる人はまったく幸運である。

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